弱きものがその地を受け次ぐだろう - 通貨

新たな政府の優先順位と非伝統的金融政策への熱狂は、通貨市場の動き方を変えている

歴史のほとんどにわたって、ほとんどの国は強い通貨を、または少なくとも安定したそれを欲してきた。金本位制とブレトンウッズ体制の時代には、たとえそうすることに必要な金利が経済の下降を促したとしても、政府は為替レート水準の維持に大きな努力をした。1930年代や70年代のような例外的な経済状況においてのみ、これらの努力があまりに痛みを伴うと考えられ、ペグは放棄された。

けれども、世界的金融危機に引き続いて、強さと安定は流行遅れになっている。多くの国はその通貨が弱くなるのに賛成しているようだ。それは、輸出業者が市場シェアをとる役に立ち、金融状況を緩和する。その経済状況への市場の信認として通貨の上昇から喜びを得るよりもむしろ、諸国は今警告で反応している。強い通貨は、そうなるとあとから率が下がっても何の利益も生まなくなってしまう輸出業者の破産を駆り立てうるだけではなく、輸入価格を下げることにより、母国でのデフレを作り出しうる。債務危機に置いては、所得の下落は悪いニュースだ。

ゆえに、金融危機の初期にトレーダーがスイスフランをユーロの労苦とアメリカの貨幣印刷に健全な代替品とみてそれを積み上げた時、スイスは心配した。1970年代後半に、似たような話がスイスの負の金利政策の採用を刺激し、銀行口座を開きたいと思う人々に料金を課した。今回、スイス国立銀行はさらに進んでいる。それは、必要に応じて、必要な時に、新しいフランを創出することによって、1ユーロにつきスイスフランを1.2にすることを約束している。このようにして通貨に枷をかけることは、支えるものとは別の種類の努力だ。通貨を支えることは、中央銀行が有限の外貨準備を使い尽くす必要がある。通貨を下げ続けることは、より多くの貨幣を発行し続ける意思を必要とする。

ある貨幣が通貨上昇の範囲を分離すれば、トレーダーは必然的に新しい目標を探す。ゆえに、ある国の政策は、ひいてはほかの国々とその政策に影響する波紋を作り出す。

日本銀行の最近の量的緩和(QE)計画は、世界中で試されている非伝統的金融政策のほとんどと同じように、多数の異なった目的を持っている。しかし、ひとつは、ほかの通貨をより魅力的でなくしている政策に反応するトレーダーの間での歓迎せざる円への新たな欲求を中和することだ。ほかの条件が同じならば、量的緩和のもたらす働きである貨幣供給の増加は、ほかの人々にとってその通貨を価値のないものにして当然で、ゆえに為替レートを引き下げる。
 

波紋は嘲笑される

けれども、通貨の歴史と過去数年間にわたる非伝統的な金融政策が明らかにしているように、ほかのことは常に、もしくはしばしば、等しいわけではない。日本の場合、QEの新ラウンドに反応した円の価値の下落は、流れに反しているだろう。日本はQE計画を2001年以来何度も行っているが、円はそれが始まった時よりも高くなっている。

QEのほかの通貨への影響も、トレーダーが最初に期待したかもしれないものになっていない。アメリカの最初のものは、ドルが鋭く上がっていた2008年の終わりだった。ドルは「安全避難所」通貨とみなされている。投資家は、世界経済の見通しについて心配した時、それに押し寄せる。恐れは、投資銀行のリーマン・ブラザーズが2008年の9月に崩壊した後の、2008年の終わりから2009年の初めに最大になった。ドルはそれから、危機の最悪期が去ると、再び下がった。

QEの第二回は、よりまっすぐな効果を持った。それは2010年の11月に始まり、2011年の6月にその計画が終わるまでドルは下がった。しかし、この下落は、中央銀行の行動が経済を生き返らせるだろう、そしてよりリスクのある資産を買う方が安全だ、という投資家の信認の責任かもしれない。同じ期間に、ダウ工業株30種平均は上がり、一方財務省証券価格は下がった。

けれども、結局、ドルは、リーマンが崩壊した時よりも、ユーロとポンドの両方に対して高いままだ。これは、QEが無意味だったということを意味するわけではない。それは、もはや利下げが可能ではなかったときに、金融状況を緩めるという目標を達成した。それが為替レートも下げることをしなかったという事実は、単に真空で行う政策はないということを示しただけだ。どんな為替レートも二つの通貨の相対評価だ。トレーダーはドルに対して疑いを持っているが、ユーロは財政危機とその通貨そのもののまさに存続についての疑いの影響を受けていた。一方、英国は、同じようにQEを行っており、景気後退に逆流していた。銀行のHSBCの通貨ストラテジスト、デヴィッド・ブルームは、このすべてからはっきりとした教訓を引き出す。「QEの通貨についての示唆は統一的なものではなく、いくらかの機械的なつながりよりもむしろ市場の認識に基づいている。」

部分的にはこのすべての非伝統的金融政策の到来のために、外国為替市場は彼らが考え運営しているやり方を変えている。経済学の教科書では、投資家がその通貨が何であれ似たように安全な通貨から同じ収益を得ることができるように、通貨の動きは二つの国の間の名目利子率の違いを取り消す。しかし、過去30年間の経験は、これはその事例を頼もしくしないと示している。代わりに短期名目金利の違いは通貨の動きを持続的に補強した。トレーダーは低い金利の通貨でお金を借り、高い率の通貨で収益を投資し、その過程でスプレッドを稼ぐ。1979-2009年の間に、この「キャリートレード」は、3年を除いて毎年正の収益を上げた。

今ではほとんどの先進市場で名目金利はゼロに近いので、キャリートレードの余地はほとんどない。より高い所得のより信頼できる素であるオーストラリアドルでさえも、その魅力を失っている。オーストラリア準備銀行は、より弱い成長に反応して10月2日に金利を3.25%に下げ、オーストラリアドルの強さは、今では低下している。

だから、ほぼ等しい短期金利を見る代わりに、投資家は債券市場の収益の違いにより注意を払っている。バンク・オブ・アメリカ・メリル・リンチの通貨ストラテジストのデヴィッド・ウーは、今では市場は、かつて心にとめていた名目金利の差よりもむしろ、(インフレ後の)実質金利の差に動いていると語る。アメリカと英国の実質金利が負である一方で、日本とスイスのデフレはその実質金利が正であることを意味し、それ故にその通貨への熱狂が再発しているのだ。

ユーロの存在もまた、市場の運営方法に違いをもたらしている。ヨーロッパは、1970年代の初めの変動相場の導入から1999年のユーロの創設まで、通貨の不安定に付きまとわれていた。為替レートメカニズムのような一つのヨーロッパ通貨をお互いに対して固定する様々な試みは、関連する国々の異なった経済実績に直面して砕かれた。

ヨーロッパの指導者たちは、単一通貨を作ることによって、彼らが市場を負かしたと考えた。しかし、異なった経済実績は続き、それらは最後には債券市場で目録を作られた。今のところ、もしユーロ/ドルレートの将来の動きを予測したかったら、スペインとイタリアの債券利回りがかなり良い指標だ。利回りが上がることは、ユーロの下落につながる傾向にある。

反対もまた正しい。ヨーロッパ中央銀行(ECB)の過去数年間にわたる非伝統的介入は、通貨を弱めるよう予想されている。その銀行が習慣的な強硬な立場から離れているように見られているからだ。市場がその通貨の分解についてもっとも心配したとき、そしてゆえにユーロがすでに最も弱かったときに、それらはふつう起きないので、それらはそうではない。(ECBがスペインとイタリアの国債を買い始めた)2010年5月の証券市場計画の始まりと、無制限の債券購入を含めた2012年7月のマリオ・ドラギの「やることは何でもする」という約束は、それらがその通貨が崩壊しそうだという恐れを減らしたので、ユーロ高の時期につながった。
 

通貨戦争、それはよいことか?

通貨取引は、本質的に、ゼロサムゲームだ。どれかが下がれば、ほかのものが上がらなければならない。先進国での様々な非正統的な政策は、人々が期待したやり方では、相対的にその通貨を下げていない。これは、すべての豊かな国の政府が、少なくともある程度は、そのような政策を採用しているからかもしれない。しかし、もし豊かな世界の通貨が発展途上国の通貨に対して下がるのならば、それは驚くべきことではないだろう。2010年9月に、ブラジルの財務大臣グイド・マンテガは、これは起きていないが、それは慎重で歓迎できないことだと主張した。通貨戦争は北と南との間で始まっているのだ。その示唆するところは、QEの使用は発展途上世界から市場シェアを盗むことを狙った保護主義の形態だということだ。ブラジル人たちは、通貨流入への税で彼の声明に続いた。

しかし、マンテガ氏の言い分への証拠はかなり揺らいでいる。ブラジルレアルは、彼が意見を述べた時よりも低くなっている。中国元は2010年以来ドルに対して上がっており、一方韓国ウォンは2009年の初めに一度リスク選好に戻ったところから陣容を整え直している。しかし(計算に多くの発展途上国通貨を入れた)貿易加重ベースでは、ドルはリーマン・ブラザーズが崩壊した時にいた、まさにその場所にいる。

多くの発展途上国は輸出に基づいた貿易政策を行っている。だから彼らの通貨はドルに対してあまりにも早くは上がらず、それ故にその輸出を市場の外で値付けしており、これらの通貨はそのドル為替レートを公式または非公式に管理している。その結果は、アメリカの緩やかな金融政策が最後にはしばしば低い金利の形で発展途上世界に感染している。需要を押し上げることによって、その影響はより高い商品価格に現れている。金はリーマンが崩壊して以来価格で倍以上になっており、最近ユーロに対して高値の記録に到達した。投資家の中には、QEが最後にはインフレに燃料をくべる、豊かな国の通貨の価値低下に向かった一般的な傾向の一部だと恐れているものもいる。

しかしながら、奇妙なことは、高いインフレが弱い為替レートにつながるという過去のルールは、かつてほど信頼できないということだ。それは、ハイパーインフレ時のジンバブエのような極端な事例に当てはまる。しかし、高いインフレの国々は輸出競争力を保つために低い為替レートを必要とするという一般的仮定は、証拠によってしっかりとは支持されていない。実は反対が問題になっているようだ。RBCキャピタル・マーケッツのエルサ・リンゴスは、過去20年間にわたって、高インフレの通貨に投資し、低いインフレの通貨を空売りすることは、首尾一貫して利益の上がる戦略だった。

主な理由は、キャリー取引の一種であるようだ。平均より高いインフレ率は、平均より高い名目金利を持つ傾向にある。別の要素は、貿易不均衡が、かつてそうであった影響ではないように見えることだ。アメリカの持続する赤字は、最近の為替レートに多くの影響を持っていないように見える。そして日本の安定的に縮む黒字も、ユーロ圏の一般的な正の貿易の地位もそうだ。

つまり、外国為替市場はもはや、かつて悪い経済行動とみなされていた、高いインフレや貧弱な貿易成績のようなことを罰していないということだ。それが、なぜ政府が今、金融部門の安定化や失業の削減といった、通貨市場を喜ばせること以外の優先事項に焦点を当てているかを説明する役に立つかもしれない。通貨は、これらの目標を阻むときにだけ問題になるのだ。
 

発行日: 
2012-10-06
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