栄養のパズル - 貧困と食料

なぜ、それほど多くの貧しい国々の人々が、そんなにも悪いものしか食べていないのか、そしてそれに対して何ができるのか?
 
サン・パウロの最も貧しく、最も誤って名付けられた貧民街の一つである、エルドラドでは、何人かの8歳の少年たちが、かつて薬物ギャングや飢餓でよりよく知られたグラウンドの1区画でサッカーをしている。彼らは健康な状況のように見えるが、そうではない。試合後に、彼らはピッチの脇にある一袋のバナナに寄り集まる。
 
「学校では、子供たちは毎日完全な食事を食べる。」地元慈善団体の「危機に瀕した子供たち基金」の事務局長、ジョナサン・ハナイは説明する。「しかし、休日には彼らは朝食も昼食もとらずに我々のところにくる。だから我々は彼らにバナナを与えるのだ。それらは腹を満たし、安く、そして脳を刺激する。」栄養失調はかつてエルドラドでは見えずに広がっていたものだ。今ではそれは少なくなり、同じように重要なことに、それはもはや隠れていない。「それはより見えるようになり、だから人々はそれに対して何かしている。」
 
もし今のエルドラドのスラムの子供たちがよりよい食事をとっているのならば、それは幾分かは、ジョゼ・グラツィアーノ・ダ・シウヴァのおかげだ。彼は、ラテンアメリカ最大の国で1/3以上飢えを削減するのを助ける政策である、ブラジルのFome Zero(飢餓ゼロ)運動を運営した。今、グラツィアーノ氏は、彼の学んだ教訓をより広く適用したいと思っている。彼は最近国連の食糧農業機関(FAO)の長に就任した。そして彼は、その前任者よりもよい成功のチャンスを持っている。彼の任命は、世界の飢餓との戦いのやり方の変化と一致している。
 
世界中の政府は、栄養にますます注意を払っている。2010年に、支援者、慈善団体、そして会社はSUN(栄養拡大-scale up nutrition-を意味する)やり方の政策案内を起草した。英国の国際開発局や他の援助機関は、栄養問題により多くの資金をつぎ込んでいる。世界銀行は、その色を「栄養を開発の中心に置き直す」という本の真ん中に据えた。国際的慈善団体のセイヴ・ザ・チルドレンは、その努力の裏にある「刺激する政治指導力」について話す。このすべての下にあるのは、追加のカロリーや食料を提供することをそれほど強調せず、鉄分やヴィタミンといった微量栄養素を供給することによって栄養をより改善することを強調するという、どのように最善に栄養を改善するのかの考え方だ。
 
 
ひどい記録
 
1960年代と70年代には、飢餓と栄養失調を終わらせるのは比較的単純なように見えた。より多くの農作物を育てたのだ。収穫が悪ければ、豊かな国は食料援助を送った。しかし、1984年のエチオピア飢饉はこのやり方をだめにした。それは、食料に困っていない国での聖書に出てくるような災害だった。それは、インド人経済学者のアマルティア・センが長い間教えてきたことを思い出させるものだった。食料に関して本当に問題となるのは、全体的な供給ではなく、個々人のアクセスだ。
 
だから、1990年代と2000年代の初めに、人々が食料を得るのを助けるよう強調の仕方が変わった。これは貧困の削減と農業市場をより効率的にすることを意味した。1990-2005の間に、貧困国で(2005年の購買力平価で)1日1ドル以下で生活している人の数は1/3の8.79億人に、または総人口に占める割合が24.9%から18.6%に下がった。
 
しかし、2007-08の食料価格の急騰は、このやり方にも限界があることを示した。多くの主要農産物の価格は1年で倍になり、多くが飢餓に陥った。世界は飢餓との戦いをうまくできないままだ。専門家は、正確にどれだけの人々が影響を受けたかについて論じたが、その数はおそらく1990年以来10億人を少し下回るくらいで頭打ちになっている。
 
たとえ十分な食料があったとしても、人々がより健康になったようには見えない。十分なカロリーのない10億人の上に、さらに10億人が(しばしば「隠れた飢餓」と呼ばれる)微量栄養素不足という意味で栄養失調状態にある。そしてさらなる10億人が食べ過ぎて肥満であるという意味で栄養失調だ。これはひどい記録だ。70億人の世界人口のうち、30億人が食べることができないか、不健康か、食べ過ぎているのだ。
 
栄養失調は、それの持つダメージがほんの最近理解され始めたので、今では注意をひいている。カロリー不足の悲劇-ふくれたおなか、やせ衰えた手足、飢饉の脱力感-は簡単に見つけることができる。肥満の悲惨な影響もそうだ。対照的に、不適切な栄養の損害は、隠されているが、同じように恐ろしい。
 
発展途上国の1.6億人以上の子供たちがヴィタミンA不足に苦しんでいる。毎年、弱い免疫システムのために100万人が亡くなり、50万人が盲目になっている。鉄分の不足は、貧困国のほぼ半分の子供たちと5億人以上の女性に影響し、毎年妊娠中の女性の6万人以上を殺す貧血の原因になる。ヨウ素不足は、塩をそれに加えることによって簡単に治療できるのだが、毎年1,800の子供たちが精神障害で生まれてくる原因となる。
 
栄養失調は1/3以上の子供たちの死に関わっており、多くの病気の中で最も重要な単一リスク要素だ。世界のすべての子供の1/3は、栄養失調の古典的な症状である体重が軽すぎるか生育不全(年の割に背が低すぎる)だ。
 
人生の最初の1,000日間で栄養失調の与えるダメージは、挽回不可能でもある。医療雑誌のLancet誌に掲載された研究によると、栄養失調の子供たちは、(他の条件が同じならば)あまり学校に行きそうもなく、そこにとどまりにくく、より勉強に苦労しそうだ。彼らは、人生を通じて、栄養状態のよかった仲間たちよりも少ししか稼げず、より貧しい配偶者と結婚し、早く死ぬ。
 
逆説的に、栄養失調はまた、人生の後半において肥満の原因となる。子宮の中と、最初の数年間で、蓄えられるものは何でも脂肪として蓄えることによって体を貧しい食生活にあわせる。その獲得した新陳代謝は決して無くならない。これが、貧困国から中進国に変わった国での天文学的な肥満率を説明する。たとえば、メキシコでは、1980年には肥満はほとんど見られなかった。今では30%のメキシコ人の大人が医学的に肥満で、70%が太りすぎだ。これらの数字はほぼアメリカと同じで世界中で最高のものの一つだ。インドでは、人々が加工食品を食べ、より体を動かさない生活スタイルを取り入れるにつれ、都市部で肥満が広がっている。そして、まるでインドが心配するのに十分な病気を持っていなかったかのように、肥満は糖尿病や心臓病のように新しい病気になる。
 
栄養学は、いくつかの困惑させる失敗のために注目を集めている。特にインドやエジプトのようなわずかな大きな国々では、栄養失調は経済成長や農業の改善のいずれもが示すべきものよりも多くを示している。インドの一人あたり所得は、1990年から2010年の間に4倍以上に成長した。しかし、体重が軽すぎる子供たちの割合はたった1/4程度下がったに過ぎない。対照的に、バングラデシュは、インドの半分くらいの豊かさで、同じ時期に3倍しか一人あたり所得が増えなかった。しかし、その体重が軽過ぎる子供たちの比率は1/3下がり、今ではインドのそれよりも低い。エジプトの一人あたり農業付加価値は、1990-2007に20%以上上がったが、栄養失調も肥満も増えた。非常に普通ではない組み合わせだ。
 
よいニュースは、よい栄養状態が驚くほどよい投資になり得るということだ。微量栄養素不足を治すのは安上がりだ。ヴィタミンのサプリメントはほとんど無料で生涯続く利益をもたらす。病院で母乳育児を促進するのに使われる1ドルごとに、それは5-67ドルの利益を生む。そして妊婦に多く鉄分を与える1ドルは、6-14ドルになる。そのような投資収益をもたらす開発政策は他にはない。2008年にコペンハーゲン合意と呼ばれる計画の一部として、8人の受賞経験のある経済学者が(750億ドルを支出できるとして)一番よい結果をもたらすと考える計画を羅列した。彼らが提案した計画の半分は栄養に関わるものだった。
 
もし栄養失調がそれほど大きな損害を与え、それに対する行動が安上がりで効果的なのならば、なぜその苦悩がたった今真剣に取り上げられているのか?それにうまく取り組んでいる国もある。ブラジルは、体重が少なすぎる人の数を1986-1996の間に年間0.7%減らした。バングラデシュは、1994-2005にどちらの率も年間2%減らした。
 
しかし、多くの国では、「隠れた飢餓」の問題は、犠牲者自身から隠されているので、変化への圧力はないのだ。もし村にいるみんなが栄養不足ならば、それは標準になり、みんながそれを受け入れる。これはまた、これはまた、貧しく悪い食事をとる人々が、テレビや贅沢な結婚式といったものに代わりに支払うことを好んで、食事に余計なお金を支払うことに気乗りがしないことを説明するかも知れない。彼の支出の選択について訊ねたとき、ある悪い食事をとるモロッコの農夫は、シンクタンクの貧困活動研究所のアビジット・バナジーとエスター・デュフロに語った。「ああ、でもテレビは食事よりも大事なんだ。」
 
教育は、人々に(より高いとしても)よりよい食事が利益があるということを説得することによって、姿勢を変えるのに役立つだろう。しかし、豊かな国の人々は、十分に知っていて大量のジャンクフードを消費するので、それは彼らにとって悪いことだ。貧困国の消費者に異なった行動をするよう期待するのは非現実的だ。だから、見えないようによいことをするのがその考えだ。
 
 
すべてのボタンを同時に押すだけだ
 
研究グループのハーヴェストプラスは、主要農産物に追加の栄養を入れるよう品種改良し、「生物学的に強化された」種を分配する。それは、2011年にナイジェリアでヴィタミンAが豊富なキャッサヴァを発表した。今年、それはヴィタミンA が豊富なメイズ(トウモロコシ)をザンビアに、そして鉄分の豊富な豆とトウジンビエをルワンダとインドに持ち込む。会社も似たようなことを加工食品で行う。(インドネシアで売られている)クラフトのBiskuatビスケットには9種類のヴィタミンと6種類のミネラルが加えられている。
 
しかし、教育や強化された食品だけでは、その仕事の真の複雑さであるよりよい栄養のために最も手に負えない障害を克服することはできない。開発のいくつかの問題は、比較的わかりやすい。学校を建てたり、教師に給料を払ったりして教育は改善できる。栄養はそのようなものではない。
 
多くの国では、栄養水準は季節によって変わる。しばしば、食料は質量ともに、主要な収穫期の前の何ヶ月かに驚くほどに落ちる。栄養はまた、家庭内でも変わる。母親は、悪い時期には、年長の子供たちのために少ししか食べず、授乳に悪影響を及ぼす。文化も問題に加わる。バングラデシュの地方では、若い母親を教育することによって栄養を改善する試みは裏目に出た。家族の食生活は、母親によってではなく義母によって決定されると判明したからだ。そして栄養はまた、すべての方法によって改善できる。腸の病気を減らし人々がより多くの栄養を吸収できるようにするよりよい下水や、食生活の多様性を増すために小作農に投資すること、子供たちに病気に対するワクチン接種をすること、免疫を改善するために子供たちをより長く母乳で育てるよう母親を教育することなどだ。ワシントンDCの国際食糧政策調査研究所のマリー・ルーエルはいくつかの仕事にチェックを入れる。妊娠期を含む生命の最初の1,000日間に焦点を当てること、母親の健康計画の規模を拡大し良い食習慣を教えること、貧困層に集中すること、問題を計測監視することだ。
 
これはすべて、栄養改善の成功する努力は、すべてのボタンを同時に押さないといけないということを含意している。ブラジルのFome Zeroは、19の省庁によって90の分かれた計画が行われている。それは、Bolsa Familiaと呼ばれる条件付き現金移転計画から、灌漑計画や小自作農を助けることまですべてを包含している。そのような努力は組織するのが難しく、政治家がそれを支持することなくては機能しない。「栄養失調の削減には、政府をまたいでどのように物事を行い、難解なお役所言葉を避け、物語を終わらせるかを知っている強力な擁護者が必要だ。英国の開発学研究所の理事、ローレンス・ハダッドは語る。
 
それ故に、FAOの新しいボス、グラツィアーノ氏は重要だ。栄養改善への関心は高まっている。今のところ、栄養失調との戦いへの失敗に対する警告もまた高まっている。彼は、より多くの国々を大きく広い努力におだててのせるやりかたを簡単には見つけられないだろう。政府は変化をいやがり、はっきりとした証拠を望む。そして、栄養失調によるダメージが人生を通して蓄積するように、よりよい栄養は長期にわたってのみその利益が明らかになり、栄養状態の良い母親は良い健康を健康状態の良い子供に引き継ぐのだ。
 
最近のFAOの会議で、「現在のところ、栄養主義者は1990年代の環境主義者と似たような立場にある。」というのを聞いたものがいた。それは憂鬱なことだ。なぜなら、それは進展が遅いだろうということを意味するからだ。しかしそれは勇気づける。なぜなら進歩は最後にはやってくるからだ。
 
発行日: 
2012-02-18
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