安全への渇望

安全資産の不足が、なぜいくつかの政府債権の利回りがとても低いのかを説明している

先月、格付会社のスタンダード&プアーズは、アメリカの公的債務への評価を、2年以内にトリプルAの信用格付が1/3の確率で下がる可能性があるとして、「安定的」から「弱含み」に下げた。この警告は、S&Pが70年前に政府債券の格付を始めてから最初のことだ。そしてそれは、アメリカの巨大な財政赤字を削減するために機能する案はすぐには合意されないという懸念を反映したものだ。

批難は厳しかったが、金融市場からの反応は、うんざりするようなものだった。金融市場は動揺した後財務省証券に再び人気が集まった。10年債の利回りは、その日の最低で終わった。株式市場は下がったが、数日で回復した。ユーロ地域をほぼ被った財政危機の最中に、そのような無関心は異常なことのように見える。しかし、それはアメリカに限定されたものではない。去年日本の公的債務はそのGDPの220%にも及んだ。しかし、10年ものの日本国債の利回りは夏に1%を下回り、円は他通貨に対して急騰した。

いくつかの国債の利回りは、将来のインフレや債務不履行のリスクに対してほとんど対策をとっていないように見える。なぜ投資家はもっと要求しないのか?一つの答えは、保留資金への需要がとても多いので、貯蓄者は高い将来の収益を要求しないということだ。日本の民間貯蓄は、その政府債務をすべて吸収するのに十分であり、さらに外国資産を買う余裕がある。アフリカやインドの一部の貧しい人たちは、いざというときの現金を気にかけて、預金集金者にマイナス金利といったような手数料すら支払う。金融が初期段階で、貯蓄の信頼できる預け場所が少ないとき、人々はしばしば貯蓄のために支払いたがる。

似たような気分で、低位安定する債権利回りは世界的な安定資産の不足によるものだと説明できると信じる経済学者もいる。急速に成長する新興経済は、金融市場が未開発で、彼らの高い貯蓄を吸収するのに十分な信頼に値する、銀行預金や債券といった道具を創出できていない、と彼らは論ずる。それは、アメリカの政府債券のような豊かな世界の明らかに安全な価値の貯蔵庫への過剰な需要を生み出し、その価格を引き上げ、利回りを下げる。この多くは外貨準備として保有される。これらの考えはMITのリカルド・カボレロ、ハーヴァードのエマニュエル・ファーヒ、カリフォルニア大学バークリー校のピエール・オリヴァー・ゴウリンチャスによって2008年に述べられた。彼らの業績は、なぜ貧しい国々が自分たちの貯蓄を豊かな国々に送るのかを説明しようとした文献の一部だった。その起源は、2005年に今の連邦準備銀行議長であるベン・バーナンキがアメリカが節約しないのは世界の過剰貯蓄が家を探していることへの反応だと論じたことだ。

より最近の論文で、バーナンキ氏は、貯蓄に熱心な人たちは確かにトリプルAのアメリカの資産に著しい選好を示すが、豊かな国からの投資家はそうではない、と明らかにした。2003年から2007年の間に生まれた中国の過剰貯蓄のうち4/5は財務省証券か政府保証の不動産債権かの購入に充てられた。余剰貯蓄で経済を洗う資本は、アメリカでその期間に発行されたトリプルAの資産の1/4よりも少なく、おそらく低い利回りを完全に説明するのには十分では無い。他の地域から資金を借りてヨーロッパから流入した資本は、アメリカ国債への更なる需要を呼び起こし、利回りの低下にさらに圧力をかけた。魅力あるねじれの中で、高い利回りを求めたヨーロッパ人たちは、アジア人投資家たちが買い込んだ政府保証債券や国債よりも安全性で劣る「民間」不動産債券を買った。

財政危機は資産不足を終わらせない、と理論の提案者は言う。代わりにそれはより鋭くなる。今、安全資産には余計な需要がある。豊かな世界の消費者は債務を支払うために貯蓄に励み、慎重な事業家は彼らの余剰資金を貯めておくための場所を必要としている。一方、安全とみなされる資産の供給は、カバレロ氏が最近の論文で記しているように、縮小している。注意深い投資家は、今では、不動産担保証券や危険性の高いユーロ地域の国債を避けている。中央銀行の購入は、安全資産の流通量をさらに減らしている。
 

数に安全は無い

その文献の厄介な発見は、過剰貯蓄を吸収する試みは、供給された資産の安全性を侵食するだけだということだ。トリプルAの証券に対する外国からの強い需要に直面して、アメリカの銀行は危険性の高い家のローンのパッケージから安全とみなされるものを作り出す強い動機を持った。継続する国債の奪い合いは、いくつかの政府にとって資産の安全性を確保するための中期的な財政規律のようなものを確保することに対してほとんど圧力がかからなかったことを意味する。債券利回りが低く止まる限り、格付機関からの警告は無視されうる。

まったく、新興市場経済の急速な成長は、やがてはアメリカの政府が安全には消化できないほどの需要を生み出す。それは、ファーヒ氏、ゴウリンチャス氏、そしてロンドンビジネススクールのヘレネ・レイによってG20の時フランス大統領のために準備された報告の結論の一つだ。彼らは、ベルギーの経済学者のロバート・トリフィンが1960年に発見した緊張の新たなヴァージョンを強調する。彼は、増え続ける交易のための世界のドル需要により、ドルは金に対する固定した価値を維持できなくなると予測した。現代のトリフィンのジレンマは、貯蓄目的での財務省証券への強い外国の需要は最後にはアメリカの財政能力を凌駕するかもしれないというものだ。

より楽観的な見方は、過剰貯蓄が一時的なものだというものだ。中国の高齢化はその貯蓄を抑制し、新興市場で広がる投資ブームは残っているものを吸収する。もしそうなれば、経済学者は資産不足の心配をやめ、資本不足に思い悩むことになる。一つの考えではすべてを説明できない。しかし資産不足理論は、(低いインフレ率にかけた)政府債券へと、(高インフレをヘッジするための)金への両方の強い強い需要といったような現在のパズルを解く助けにはなる。それはまた警告だ。今安全なものがいつも安全だとは限らない。

Economics Focus欄より
 

発行日: 
2011-05-07
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